「敷地境界線を消せないか!!」
幼年篇
(株)フォルムデザイン 松岡憲司氏


 私は田舎の生まれで、田や畑に囲まれた一軒家で育った。と言っても、両親の疎開先で五歳までそこに暮らし、その後、幼稚園に入園する前に、両親と共に地方の町に移り住んだ。その後も祖父母が暮らすその生家に、学校が長期の休みにはいるとよく遊びに戻ったものである。その祖父母の家は小高い丘の西面 によりかかかるように建っている。南と北は畑で、西は少し低く田圃が広がっている。全くの田舎である。

 幼いころはその周辺一体の土地がすごく広く思えたのだが、小学生になり少し冒険心も芽生えてくると活動範囲も広がり、その土地が狭く感じられるなったと同時に、いろいろな経験が出来るようになった。この頃になると、夏休みや春休みにそこを訪れるだけの私にも友達ができ、一緒に遊んだものである。いや、遊んでもらったと言った方がよい。小学校2,3年生の頃には、山での遊びのほとんどを地元の友達に教えてもらっていた。遊びの航続距離が伸びたのもこの友達のおかげである。

 東の小高い灌木の丘を越えると、東に向かって急な斜面となり、クヌギやコナラ、松などの雑木林がひろがっている。そこは絶好のカブトムシやクワガタムシの収穫場であり、大人のこぶし大で背中の真っ赤なカブトムシや、体長7センチ もあるクワガタムシを捕まえたことがある。今であったら一体いくらの値がつくだろうという代物である。南には畑が広がり、夏にはトマト、スイカ、キュウリなどが実り、所有権はともかくオヤツには事欠かなかった。 西の田圃ではカエルが夕方から大合唱を始める。鳴りやまぬこの大合唱を聞きながら眠りにつくのである。昼間にこの田圃のあぜ道を歩いていると、よく蛇がカエルを飲み込もうとしているのに出くわす。私にとって蛇は悪者でカエルは弱者であった。この蛇の胴体を踏みつけ、カエルの両足をつかんで引き抜く。カエルを助けてやるのである。とにかく引き離す。その後、カエルが生きながらえたかは定かではない。引き抜くのは難しく、よくカエルの足が付け根からちぎれたものである。

 この頃はハンミョウといういまどきの都会では、いや、中途半端な田舎でもくわすことのない昆虫をよく追っかけたものである。ハンミョウはとにかく足が速い、走るのではなく飛ぶものだから、追いつくのが難しい。玉 虫よりきれいな背中のこの3センチに満たない昆虫は、自分の背丈ぐらいに近づくとサットと飛び去る。何とか捕まえようと追っかける、相手が着地した地点を確認すると、ソッと忍び足で近づくが、又手のとどく距離に近づく前にサッと飛び去る。
この繰り返しである。とにかく捕まえたいと追いかけていくと、いつの間にか知らない土地に踏み込んでしまっていた。

 こんな生活をしているうちはその行動範囲に境界線(踏み込んではいけない区域、場所との境目という意味)はない。幼少の頃は大人の厳格な所有関係もほとんど関係ない 。しかし、小学生も高学年にもなるとそれまでの教育のおかげか、他人のモノと自分のモノとの区別 はできるようになっているものである。それと同時に、友達などもグループができ、仲のよい友達が決まってくる。私のこの頃は学校でのグループは学校だけで、これは同級生の集まりで家に帰ってからも付き合いはあった。これとは別 に帰宅後は町内のグループがあった。これは年齢を超えて数歳の年齢差があってもグループの一員である。そのグループは男ばかりの場合と女の子を含む場合とその遊びの種類によって変化する。当然、私達だけがグループを作っているのではなく隣の町(町内)でも同じようにグループができている。こんなグループが周辺にいくつも存在してたように記憶している。たいていの場合、その頃の年齢の行動範囲によって川や丘などがあったりなどして、これらのグループ間に自然に境界線ができていたのだろう。

 問題はこの境界線上で常に起こったものである。政治家も同じように派閥を持ち、政治団体というものがあり、大きく国家というものが百数十、地球上にある。いずれもその境目で問題は起こる。私達のグループの一員が境界線を越えて隣の領域に踏み込んだ。といっても、近道をしようと隣の町内の目抜き通 りを歩いただけらしい。おそらく、隣町のグループの誰かがからかったのか、それに対する受け答えが悪かったのか、いじめられて泣きながら帰ってきた。それからしばらくはその隣町のグループとは冷戦状態となった。国家間には外交という手段があり、常にその関係が正常に機能するように保たれようとしている。私達のその頃は、外交という概念などはなく、即座に冷戦、もしくは戦争状態であった。

 幼少の頃にもこのように境界線はあった。それを意識していなかったが、子供心に境界線などなければよいと思っていたに違いない。(次回に続く)

このコーナーはテーマを変えて続きます

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